マンションの大規模修繕の実施は義務?分譲と賃貸による法的根拠の違いも解説

「マンションの大規模修繕って義務なの?」

実は、分譲マンションの大規模修繕に法的な義務はありません。ですが、賃貸マンションには実質、実施義務があります。

しかし、分譲・賃貸に関わらず、ほとんどのマンションは12年~15年に一度、大規模修繕を実施しています。一体、何のために修繕するのでしょうか。

そこで今回は、分譲と賃貸による大規模修繕の実施義務の違いや、大規模修繕を実施する意味などを解説していきます。

法令は「知らなかった」では済まされません。しっかり知識を身に着けて、余計なトラブルを防ぎましょう。

分譲マンションの大規模修繕に義務はない

分譲マンションには大規模修繕の実施義務がありません。大規模修繕に関する記載事項は、建築基準法2条14項における以下の条文だけです。

大規模の修繕 建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう。」
e-Gov法令検索より引用

主要構造物とは「壁・柱・床・梁・屋根または階段」のことを指します。

建築に関する法律は、区分所有法やマンション管理適正化法などがありますが、それらの中にも大規模修繕の実施義務はありません。

では、なぜ賃貸マンションでは実施義務があるのでしょうか?それは、民法606条の法令が根拠になっています。

「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」
e-Gov法令検索より引用

民法では「賃貸物件のオーナーは住民が快適に住めるように修繕してくださいね」と義務付けているのが分かります。

分譲と賃貸で大きな違いがあるので、必ず覚えておきましょう。

義務がなくても大規模修繕を実施する意味

分譲マンションには大規模修繕を実施する義務がありません。しかし、多くのマンションは大規模修繕を実施しています。なぜなのでしょうか。

ここでは、義務がなくても大規模修繕を実施する意味について解説します。

安全性の向上

一つ目は安全性の向上です。マンションは12年ほど経過すると、劣化が目立ってきます。放置すると建物の劣化が深刻になり、時には居住者や歩行者が危険な目にあうことがあるのです。

例えば、私が勤めていた会社では、こんなトラブルがありました。

タイル壁式マンションで劣化が見られたので、所有者に「危険なので修繕したほうがいい」とお伝えしていましたが

「お金がない」

という理由で修繕を渋っていました。

そんな折に強烈な台風が直撃。翌日、台風が去ってみるとタイルが剥がれ落ち、居住者の高級車に直撃。フロントガラスやバンパーを傷つけ、所有者が保険で高額な支払いをする羽目になってしまいました。

こういったトラブルを防ぎ、安心して暮らしてもらうためにも、行う必要があるのです。

マンションの資産価値の維持

もう一つは資産価値の維持をすることです。

マンションは居住者にとってステータスそのもの。外観が汚れていたり、設備が古かったりすると、居心地が悪くなるものです。

また、入居予定の方にとっても、外観や設備は居住意欲を左右する重要なポイントです。劣化箇所が多いマンションには誰も住みたいと思わないでしょう。

居住者に永く住んでもらったり、入居率をアップさせたりするためには、大規模修繕による資産価値の維持が欠かせないのです。

居住性の向上

居住性の向上も大規模修繕を実施する意味の1つです。

時が経てばマンションに住む方々の年齢層が上がり、周りの環境も大きく変化します。そんな時、エレベーターがない、バリアフリーではない、耐震化されていない…では、マンションのとしての価値を落としかねません。

そこで、大規模修繕を行い、居住者のニーズにあったマンションに生まれ変わらせる必要があります。エントランスの扉を自動にする、駐車場を立体式にするなども、その一部でしょう。

マンションの居住性は居住者の状況や周囲の環境によって大きく変化します。大規模修繕にあわせて、グレードアップする必要があるのです。

分譲マンションでも大規模修繕以外に建築に関する法的な義務がある

分譲マンションには大規模修繕の義務がないことは述べました。ですが、それ以外に建築に関する法的な義務を負っています。

最後にこの義務について解説します。

外壁タイルの打診・目視による調査

建築基準法では10年に一度、外壁タイルの打診・目視による調査が義務付けられています。

調査は全てのタイルを行わなければならないため、足場をかける必要も。そのため、このタイミングにあわせて大規模修繕を実施する管理組合が多いです。

「でも大規模修繕って12年~15年に一度じゃないの?」

と思った方はズバリその通りです。調査をする3年以内に大規模修繕をする予定があるマンションでは、調査の延長が認められています。

つまり、調査も大規模修繕も13年に一度でよくなるのです。それ以上のスパンで大規模修繕を行っている方は、どこかで一度外壁タイルの調査を行っています。

外壁タイルの調査は義務なので、怠ると行政から通達が来てしまいます。必ず実施するようにしましょう。

管理組合への加入

管理組合とは、建物の運営や建物内外の維持管理を行うために構成される組織です。

区分所有法第2条では、分譲マンションの区分所有者(敷地の所有権がある人)は、全員管理組合への加入が義務付けられています。

実務は管理組合の中から選出された理事会が行うので、総会の参加以外にイメージが分からない方もいるでしょう。

大規模修繕を行う際は、決定権をもつ理事会や管理組合員で組織される大規模修繕委員会が業務を担います。

管理組合は、いわばマンションの適正な維持管理に、必要不可欠な存在なのです。

設備の適正な管理の努力義務

こちらは努力義務にとどまりますが、マンション管理適正化法では、設備の適正な管理が求められています。

設備の適正な管理にくわえ、国や地方が講ずるマンションに関する施策への協力も求められているため、努力義務を怠ってトラブルが起きた場合、法的責任を負う可能性があるのです。

分譲マンションは修繕の義務はないとはいえ、マンションの設備などを適正に保つため、適宜修繕などの判断を行う必要があります。

この努力義務を果たすのは管理組合です。つまり、理事会をはじめとする居住者全員が、この努力義務を果たさねばならないということになります。

かなりマイナーな法律ですが、無用なトラブルを避けるためにも、ぜひ押さえておきたいところです。

まとめ

この記事では、マンションの大規模修繕を実施義務の違いや実施する意味について述べてきました。まとめると以下のようになります。

  • 大規模修繕の実施義務があるのは賃貸マンションで、分譲マンションにはない
  • 大規模修繕は安全性・資産価値・居住性の向上のために行う
  • マンションには大規模修繕以外の義務がある

分譲マンションは大規模修繕を実施する義務はありませんが、居住者や所有者の安心・安全のためにも必要不可欠なものです。

修繕費をケチったために、タイルが剥がれて大きなトラブルを起こしたケースがいい例でしょう。大規模修繕にくわえ、余計な出費が発生してしまうこともあるのです。

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